Kの思索(付録と補遺)

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「破天荒フェニックス」をドラマ化しよう~ Kの思索(付録と補遺)vol.72~

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  破天荒フェニックスは、倒産寸前で再建はほぼ不可能と言われていた眼鏡会社「オンデーズ 」を見事に立て直した社長と社員たちの実録である。

 


  この物語を語る上で欠かせないのは、社長である田中CEOと、彼を黒子的に支えた奥野CFOである。

 


  オンデーズ の再生は、始まってみるとまさにミッションインポッシブルであった。「一寸先は闇」というレベルではなく、「一手先は常に王手」というような感じである。次々と襲いかかる資金ショートの締め切り。その額は1億、3億と増えていく。これを乗り越えた田中CEO。すなわち「破天荒フェニックス」はどのような人物なのであろうか。

 


  一言で言えば「頭のネジが一本外れて狂っている」。常人ではおよそ取らない、いや足がすくんで取れないような道を、圧倒的な決断力と、とんでもないスピード感で実行していくのである。しかしその方針はいつも「火を消すには爆弾」「傷は粗塩を擦り込んで治す」「毒を制すには猛毒を」というような、一度失敗したらお終いという超攻撃型なものであった。

 


  この田中CEOの破天荒な決断で、もっとも泥をかぶった人物が、奥野CFOである。優秀な右腕というレベルではない。破天荒フェニックスでは、誰もがこの奥野CFOの戦いに胸を熱くされる。

 


  奥野CFOは、田中CEOの破天荒な決断にいつも困らされ、その度にいつも、非常に合理的に「それがどれだけ無茶な行為か」を説く。もと金融人であり、投資会社を設立した経験もあり、その言葉には歴戦の重みがある。その「CFO」(最高財務責任者)という肩書きが燦然と輝く人物である。

 


  たが田中CEOも負けてはいない。こちらも10代の頃から企業再生案件を手がけていた生粋の起業人である。奥野CFOの合理的な説得にも屈することなく、「この無茶と思える決断に、どれだけやる価値があるか」を説くのである。そしてその語りには、説得力があるだけでなく、聞いてる側を熱くさせるパワーがある。

 


  だからこの構図は、いわゆる理想的な凸凹コンビである。古畑と今泉。上田と山田。杉下と亀山。トムとジェリー。お互いが真逆の性質を持ちながら、それがシナジーを生み、結果として爆発的な面白さをもたらすのである。

 


  すなわちこうだ。田中CEOが、到底無茶と思われる「思考がジャンプしたような、ほぼアートな」指示を出す。それに対して奥野CFO合理的な立場からそれを理詰めで止めようと説得する。しかしなんだかんだ根負けし、なんだかんだでやり遂げてしまうのである。正にデスノートジェバンニのようなチート感である。

 


  この形、実はシリコンバレーで成功した企業が、結果として持っていた特徴と、極めて似ているのである。すなわち、「まず、ぶっ飛んだアート的な思考を持ったCEOが、『これをやるんだ、どうしてもこれをやらなければならない!』と理想的な目的地を指示する。それに対して、現実的で合理的な思考をもったCFOが、その社長の理想をできる限り現実的な形でアジャストさせるべく、知恵を絞る」という形。スティーブ・ジョブズの破天荒な指示のもとに、どれだけの合理主義な右腕が血を流したのか。これが重要なのである。

 


  そしてこれが「逆になった」パターンの企業は、シリコンバレーでは生き残れなかったのである。すなわち「これだけの予算があり、合理的に考えると、これこれの範囲で、これこれのことができそうなので、この範囲のもとで実現しうる最高の創造的なアートをして、成果をあげて下さい」という形である。一見すると堅実な経営方針ではあるものの、それでは企業競争という激しい戦いには勝ち残れないのである。リスクを取らない現状維持的な戦い方は、長い目で見ると必ず衰退なのである。

 


  つまり、勝負事は、結局「命がけ」ということである。田中CEOは常に自らの人生をかけた決断をしていた。常に自己破産を考えていた。多くの金融機関に身投げするように、保証人のサインを書いた。常に降りかかる致命傷の攻撃。奥野CFOはそれを回避すべく、ひたすら戦ったのであった。

 


  このような物語が、実際に行われたことに、心が震えないはずがない。多少小説用に、ドラマ的に脚色されているとしても、文章から滲み出る現場感が「本物」を読者に伝えるのである。

 


  田中CEOは今、ZOZOの前澤社長のように1億円をばら撒こうか迷ってるらしいが、その2倍の額を投資して、この破天荒フェニックスをドラマ化するべきだと本気で思う。圧倒的な宣伝広告が期待できる。人は商品に、なんらかの物語を求めているものだからだ。「その人の生き様が好きだから、その人の作ったものを買う」という例は、沢山ある。「その商品を完成させるために、どれだけのドラマがあったのか」を知れば、思わず買いたくなる。付加価値はモノ自体の良さだけではない。それを作った人のドラマにもあると思うのだ。

 


  END.