Kの思索(付録と補遺)

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2019年 個人的映画ランキング〜Kの思索(付録と補遺)vol.102〜

大量の軍勢が今まさに激突しようとしている。ナパレはその風景を見ていた。

 

一方のリーダーは青い服に身を包んだ人間、一方のリーダーは、人間ではない。


ナパレ「なんだこれ?

 

K「今まさに、お互いの『正義』が激突しようとしているね。」

 

ナパレ「うわ!なに!」

 

K「この展開はぼくも予想してなかった。こんな形で語ることになるなんてね。

 

ナパレ「…なに?ていうか、あなた誰?」

 

K「君に生み出されたのさ。まぁそんなことは良い。とにかくこの戦いを、安全な客席で見届けようじゃないか。」


「アッセンブル」


その掛け声とともに両軍が走り出した。

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金属の防護服に身を包んだ者もいれば、モンスターのような姿をしたもの、手から糸を出したりするものなど、多種多様な人種が、各々の能力を発揮して激戦を繰り広げる。


K「アベンジャーズ、そのエンドゲームと呼ばれる世界だよ。

 

ナパレ「よくわからないけど、あの緑のハゲたデカイ人がメチャクチャ強いね。」

 

K「サノスと呼ばれている。『絶対なるもの』という意味だ。彼の正義は、宇宙の平和と秩序を保つことにある。」

 

ナパレ「いい人なんだね。

 

K「それを実現するためには、全宇宙の人口を『半分』に抹消しなければならないと言っている。」

 

ナパレ「意味がわからない。」

 

K「地球の人口爆発と一緒さ。限りある土地に人間が増えすぎればどうなると思う?」

 

ナパレ「みんなで一緒に協力して、なんとかすると思う。」

 

K「サノスと戦っている人たちはそう思ってるかもね。でもサノス自身はそうは思ってない。結局みんな、自分が生き残るために、限りある土地を奪い合うと考えている。そしてそれは、おぞましく凄惨な戦いになると。」

 

ナパレ「ネガティブだなぁ。」

 

K「だからそうなるまえに、人口を減らせばいいってサノスは考えたんだよ。」

 

ナパレ「でもこうして結局、争ってるじゃない。」

 

K「無作為に消される方はたまったもんじゃないからね。」

 

ナパレ「でも本当にあのサノスって人は強いね。集団相手にほとんど一人で戦ってる。」

 

K「普通の人とはかけ離れた、壮大すぎる信念や理想を持つ人さ。ストイックなんだよ。ナパレはサノスが正しいと思う?」

 

ナパレ「ある一面ではね。」

 

K「じゃあ、そのもう一方の一面としては、彼のどこが間違ってると思う?」

 

ナパレ「うーん…他のみんなが納得してないから。

 

K「てことは、ナパレは、『正しい』ことかどうかは『他のみんなが納得してるかどうか』で決まると考えてるんだね」

 

ナパレ「そうとはいわないけど…でもやっぱり、なんでサノスにそういう大きなことを決定する権利があるの?とは思うよ。」

 

K「頑張ったみたいだけど、この戦いはサノスの負けみたいだね。」

 

ナパレ「まぁ、勝手に好き勝手やろうとした人の自業自得なんじゃないかな。…なんだかかわいそうな気もしたけど。」

 

K「その違和感が、最後にもう一度、極度な形で現れるだろう。」

 

ナパレ「最後?」

 

K「5位、アベンジャーズエンドゲーム」

 

ナパレの視界が暗転した。

 


気付くとナパレは丘の上の神社にいた。夕焼けが眩しい。二人の男がそれを見ながら話し合っている。一人は普通に黒の学ラン、一人は…真っ白な学ランだ。

 

K「いい感じの雰囲気だね」

 

ナパレ「…この『感じ』にも慣れたよ。なにか普通じゃないことが起きてるってことにね。」

 

K「見てごらん。彼らの間に友情が結ばれたようだよ。」

 

ナパレ「みんなこういう風にして、前みたいな争いもなくなっていけば良いんだけど。」


直後、今度は争いの真っ只中に放り出された。

 

ナパレ「うわ、やばい!」

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K「こっちだ!」

 

Kはナパレの手を引っ張って浅い川を越えた。

 

K「こっちなら、三途の川の向こう岸、といったところか。」

 

ナパレ「どっちがあの世だろうね。」

 

K「冗談を言える頭があるねぇ。この場合はどちらもあの世だ。今度のこの状況をどうみるかね?」

 

ナパレ「不良高校生って感じの人たちが殴り合ってる…それにしても大規模だなぁ。」

 

K「もっと注意深く見てごらん。」

 

ナパレ「あ、さっきの二人が戦ってる!どうして?」

 

K「お互いに、仲間を傷つけられた事に憤ってる。入院患者まで出しているみたいだ。」

 

ナパレ「さっきあれだけ仲よさそうだったのに…あ!トラックが突っ込んだ。」

 

K「戦いが止まったね。青バンダナの男が呼びかけている。どうやら原因は他にあったようだよ。両者は思い違いをしていたらしい。」

 

ナパレ「まったく…喧嘩は良くないね」

 

K「彼らは間違ってるかい?」

 

ナパレ「なんでも暴力で解決すれば良いって安直な考えが嫌いなんだよ。」

 

K「きみの友人や愛する人が、例えばバットで襲われたとしても、考えは変わらないだろうね?」

 

ナパレ「すぐそういう極論をいう。」

 

K「物事の本質を見極めるために、極論を放り投げてみることが発見につながるものなのさ。

 

ナパレ「極論がはたして本質に繋がるか、僕は微妙だと思うけどね。極論が明らかにするのは、極論だけだと思うな。」

 

K「きみ、そうやって噛み付くと、色んな人から嫌われるよ。屁理屈言うなってね。」

 

ナパレ「屁理屈じゃなくて、正論だよ。」

 

K「まぁ僕はそういうのが嫌いじゃないのだけど、生きにくいだろうねぇ。」

 

ナパレ「別に彼らの気持ちが間違ってるとはいわないよ。それを暴力に頼るのがよくないってだけで。」

 

K「気持ちは間違ってないと思うんだね。」

 

ナパレ「そうだよ。」

 

K「でも彼らはその行動を、結局、喧嘩に移してしまったわけだ。喧嘩は悪だと言ったね?」

 

ナパレ「うん。」

 

K「では結局、その悪を生み出した『気持ち』も、悪ではないのかね?それがなければ喧嘩もしなかった、という点でいえば。」

 

ナパレ「気持ちが正義で、行動が悪だということもあるよ!

 

K「彼らは頭が良くないからね。喧嘩の他に思いつかないんだろう。」

 

ナパレ「頭がよくないって…。」

 

K「ナパレ、君は賢いから、そういう人の気持ちが分からないんだろうね。それとも、彼らに向かって、頑張って賢くなれというかい?」

 

ナパレ「努力はすべきだよ。

 

K「もちろんそうだ。ただ努力で追いつけないものもある。君が車の速度で走ろうと思って練習しても、いつか身体の方が壊れてしまうだろう。

 

ナパレ「車になれなくても、そうなろうとする気持ちを持ってやるのが大事なんだよ。」

 

K「その結果、自分の体が壊れてしまっても?

 

ナパレ「そうなるかは、結局やってみなければ、わからないじゃん。自分が『車だった』と気付くかもしれない。

 

K「やってみて、結局、取り返しがつかなくなっても良いのかい?」

 

ナパレ「そんなこと考えてたら、一生何も出来ないよ。

 

K「君の言葉は元気さに満ち満ちているねぇ。みんながそうだといいのだけど。とはいえ一般論として、気持ちが間違ってないのに、行動が悪になってしまうことがある。その人にはそれしか選択肢がないってこともある。その場合、彼は間違っているのだろうか?

 

ナパレ「ぼくは、そこに答えはないと思う。

 

K「4位、HiGH&LOW THE WORST。」

 


気付くとナパレは駅に居た。丘の周りに添うように道が続いている。その道の奥に、祈りを捧げる少女の姿がある。

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K「雨だね。」

 

ナパレ「雨よりも!なにここ、街全体が沈没してるみたいなんだけど。」

 

K「向こうに祈る少女の姿が見えるだろう。街がこうなってしまったのは、彼女のせいなのさ。」

 

ナパレ「随分と迷惑な子だね。もしかして、祈れば許されると思ってるのかな。」

 

K「罪を償うための選択肢が、もはやそれしかないのだと思うよ。」

 

ナパレ「なにがどうなって、そんなことになったのか、よくわからないけど。」

 

K「彼女は『世界よりも自分を優先した』のさ。いや、語弊があるな。むしろ強引に引っ張り込まれた、というのに近い。」

 

ナパレ「誰に?」

 

K「彼女に向かって走っていく男にさ。」

 

ナパレは世界を壊した男女が抱き合う様を見た。

 

ナパレ「でも、なんだか、ハッピーエンドって感じだ。

 

K「ここがエンドロールだからね。とはいえ、ハッピーエンドかは、どうかな。世界は壊れてしまってるわけだからね。その意味ではバッドエンドといえなくもない。

 

ナパレ「でもぼくは、祝福の雨って言いたくなるね。あの二人の様子はなんか美しいな。」

 

K「メッセージが風景として具現化しているのさ。それがこの世界だからね。」

 

ナパレ「世界よりも自分を優先するって、そんなに悪いことなのかなぁ。神様じゃないんだから。

 

K「まったくさ。でもそういうのはエゴだと言って否定するのが常だろう?」

 

ナパレ「エゴかもしれないけど、神様じゃない限りは、エゴなんて消えないよ。」

 

K「彼らのやったことは間違ってるだろうか?」

 

ナパレ「もう間違ってるとか、正しいとかじゃ、ないんじゃないのかなぁ。

 

K「というのは?」

 

ナパレ「うまく言えないけど。なにが正義かとか、そういうことじゃないっていうか。そういう冷めた定義の問題じゃないというか。

 

K「3位、天気の子。」

 

 

一人の男がギターを弾き語り、その側に楽しそうに笑う女性が座っている。

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ナパレ「仲よさげなカップルだなぁ。」

 

K「カップルではないし、仲が良いかも微妙なんだけどね。」

 

ナパレ「でもあんなに楽しそう。」

 

K「昔に戻ってるんだよ。音楽は過去に行ける唯一の装置さ。

 

ナパレ「あれ、あそこにもう一人女の子がいる。」

 

K「どうやら彼女は、完全に気づいてしまったようだよ。」

 

ナパレ「何に?」

 

K「自分の気持ちが間違っている、ということにさ

 

ナパレ「さっきと逆だ。」

 

K「そうだね。でもなんとかそれに折り合いをつけようとしている。」

 

ナパレ「なんだか美しいなぁ。」

 

K「これまで見てきた通り、間違ってると知りながらも、それを選ぶ気持ちも美しい。反対に、間違っていることを自覚して、それを捨て去る気持ちもまた美しい。

 

ナパレ「反対のこと、どちらも美しさを感じているって変じゃない?」

 

K「実は反対じゃないのかもしれないよ。その本質は一緒なのかもしれない。」

 

ナパレ「なんだか難しいなぁ。」

 

K「2位、空の青さを知る人よ。」

 


紫色のスーツを着た男が車椅子に座っている。少し離れたところで、グリーンの雨衣を着た男と、上半身裸の男が対峙している。


K「先に見てきた戦いの中でも、最も象徴的で、もっとも純粋な争いさ。」

 

ナパレ「純粋?」

 

K「彼らには正義も悪もない。ただ自らの使命に従っている。自らが生まれ持った性質に気付き、ただそれを実行しているのさ。」

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ナパレ「え?では何のために彼らは戦うの?」

 

K「つまり、目的ではなく、そもそも目的がないのだ。ただただ彼らは、その使命に従っているんだよ。そしてその使命の中にいることで、悲しみを消すことが出来る。」

 

ナパレ「よくわからない。」

 

K「全てはミスターガラスのマスタープランだったのさ。みんなが己の『使命』に気付くためのね。」

 

ナパレ「使命に気付くとどうなるの?」

 

K「己の存在意義がわかるのさ。そのためにミスターガラスは、何百人という人を殺さなければならなかった。」

 

ナパレ「何百って…存在意義ってそんなに大切?」

 

K「ほかの人との乖離を感じない人であれば、存在意義なんて要らないだろうし、そんな発想にも至らないはずだ。」

 

ナパレ「その乖離を感じる人って、どういう人のこと?」

 

K「何らかの場合でほかと違う人のことさ。マイノリティのことだよ。」

 

ナパレ「マイノリティの人には存在意義が必要なの?」

 

K「彼らは基本的に少数派だ。多数派に排除されがちなのさ。そういう生活を送っていると、どうなると思う?」

 

ナパレ「わからない。」

 

K「自分がこの世界にいる意味がわからなくなってくるのさ。自分なんかいなくなってしまえば良い…そっちの方が世界が円滑に回るだろう、そこまでの思いに苦しむ人もいる。」

 

ナパレ「それは…サイテーの気分だろうね。」

 

K「けれど、彼らがもし自らの使命に気付くことが出来たら…自分の存在意義がわかるし、『自分なんてこの世にいない方がいいんじゃないか』なんて苦しみから、解放してあげることが出来る。

 

ナパレ「そのために、何百人もの人を殺した。」

 

K「このメッセージは強烈なんだ。」

 

ナパレ「これまでの中で、もっとも純粋で、もっとも危険なメッセージを孕む世界…。」

 

K「ただミスターガラスの頭には、正義も悪もないし、そもそもそういうマイノリティを救おうとかも考えてないかもね。ミスターガラスは、このマスタープランの実行こそが、自らの使命だと信じているだけ。それが実行されることで、自己の存在を証明する、それだけなんだ。」

 

ナパレ「恐いよ。てことは、個々人が『使命に気付くこと』そのものが、もはやとても危険だということでは?

 

K「まさに。だけどそれを承知の上だろうね。」

 

ナパレ「なんて人だ。それでも使命に目覚めろっていうのか。」

 

K「彼にとってはそれが存在の証明なのさ。」

 

ナパレ「理解されないだろうね。」

 

K「1位、ミスターガラス。」

 

ナパレ「ひと段落!」

 

 

ナパレ「いろんな世界を見てきたけど、何か共通してるものがある気がする。」

 

K「それはそうだろうね。何が共通してると思う?」

 

ナパレ「間違ってるとか、正しいとかじゃないってこと」

 

K「何が優先されてるのかな?」

 

ナパレ「信念とか使命みたいなものかな。あとは苦悩している人間の思想は、それがどうであれ肯定してる。ちょっと危険な感じ。

 

K「君と対話出来て良かった。さすが名付け親だ。君が僕を生んだってことがよく分かったよ。」

 

ナパレ「結局、これはなんだったの?」

 

K「ただの総まとめだったのさ。これまでのね。」