Kの思索(付録と補遺)

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ちはやふるー結びーの感想 これはもはや少女漫画ではない!〜Kの思索(付録と補遺)vol.34〜

 ちはやふるー結びーを見てきました。もうこれは少女漫画ではなく、むしろ「青春バトルアクション」だと思いましたよ。

 

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 予告編はこちら

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 「ちはやふる」の原作は、いわゆる「競技かるた」をテーマにした少女マンガです。著者は末次由紀さん。

ちはやふる - Wikipedia

 

 「ちはやふるー結びー」は「ちはやふるー上の句ー」「ちはやふるー下の句ー」に続く、3部作の完結編。もちろん前2作は鑑賞済みで観てきました。今回の「結び」は最終章なわけですが、前回のお話とかがアバンタイトルで語られたりは一切しないので、ご注意を。僕は前2作(上の句、下の句)見ておくことを強く推奨します。というのも、後述するようにこの作品は「キャラクターの相関関係」によるカタルシスが非常に強い作品ですんで、そもそもそのキャラクターへの理解が曖昧だと燃えるとこも燃えられないと思うのですよ。

 

 んでちはやふるに関して、上の句が公開された頃の僕は正直あんまり興味なかったんですよ。というのもいわゆる邦画の「量産型恋愛映画」だと思ってましたからね(例を挙げればキリがないし、好きな人からは反感を買いそうなのでここではあえて触れませんが)。

 

 ただ上の句に関しては、普段からエクスペンダブルズやワイルドスピード等の「頭が悪い」映画ばっかり見てるような層各所で絶賛していたので、「お前らには恋愛かんけーねーだろ」とか疑問に思いながらも、その真相を確かめるべく劇場に足を運んだのでした。

 

 そしたらこれが(普段エクスペンダブルズやワイルドスピードとかを見て大はしゃぎしている)僕にも大当たりでしてね・・・。ぶっちゃけめっちゃ泣きました。少女漫画的な恋愛展開はあるにせよ、本質はむしろ王道のバトル映画だったのです。激アツなアドレナリンほとばしる展開(最強VS最強)(主人公のために仲間が死んでいく)(主人公覚醒)とかがあるわけですよ。そりゃ僕でも楽しめるわけですよ。んで実際競技かるたって公式試合こんな感じなんで、達人同士の居合切り対決というか、そういう真剣味のあるものだと初めて知ったわけです。

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 そんなこんなで、「上の句」は僕の2016年映画ランキングで9位に入ることになりました。下の記事を見ると他の映画ランキングも見れます。

 

yushak.hatenablog.com

 

 んで「下の句」に関しては映画ランキングに入ってないのがお分かりかと思います。下の句は正直微妙だったのですよ。ちょっとウェットに過ぎるというか、少女漫画的すぎるというか(原作は少女漫画です)。上の句の「燃え泣き」的な王道少年漫画展開を期待しすぎた僕がいけないのかもしれないですけど、下の句はちょっと肌に合わなかった。

 

 そんでこの「結び」が公開されることとなった時にはちょっと微妙な気持ちにもなっていて「んーーDVDでいいかなー」なんて思ってもいたのですが、また「例のバカ映画好き層」が絶賛していたので足を運んだ次第です。結論からいって今年ベスト候補の映画でしたよ。

 

 最初にお断りしておくと、僕がこの映画で一番感情移入しているキャラクターは、ヒロインの千早

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ではなく、千早の幼馴染で、千早に恋心を寄せる主人公の太一

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でもなく、千早と幼馴染だったけど遠くに離れてしまい、しかし今でも千早に恋心を寄せる二人目の主人公である新(あらた)

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でもなくあだ名で「机くん」と呼ばれている駒野です。

 

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 この圧倒的ビジュアルがもうキャラクターを説明しているようなもんですね。なぜ机くんと呼ばれているかと言えば、勉強オタクでいつも机にかじりついていたからです。テンプレだなー。そんな彼はかるたの実力も周りの部員と比べるとそれほど秀でてはおらず、そもそもかるた初心者であり、ヒロイン千早の勢いによって「数合わせ」的にかるた部へ入部したのでした。

 

 机君はそういうキャラクターなもんだから、勉強はできて凄く頭はいいのだけど、決定的に協調性にかけるというか、ちょっと面倒くさいところがあるのでした。しかもかるたは弱いし、ある意味でチームのお荷物になってしまい、「上の句」ではこんな一場面も・・・。

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  「ちはやふる」ではこの机くんの成長物語に涙せずにはいられなくてですね。理屈こねくり回しちゃうとことか、協調性がないとことか、「そもそもどうやって他人とあわせられんの?」と思っちゃうくらい個人で生きてる感じが僕とそっくりなのでして(哲学者の宿命)。

 

 この机君が「チームプレイ」を手に入れるまでの描き方が本当に素晴らしくてですね。特段かるたが強いわけじゃないので、お荷物はまぁお荷物なんですけど、練習してそれなりには強くなる。決して努力を投げているわけじゃないのはキャラクターとして非常に好感をもてますし、彼は頭が良いので、その頭をつかって戦略を考えたり、他校のデータ分析とか、彼なりのやれることがあるわけですね。この「たとえお荷物だろうと、自分の得意分野でやれることをやればいい」という映画的メッセージも優しいですし、勇気づけられますよね。そんなこんなで上の句、下の句を経た机くんはこんな感じになります。

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 本当によかったね(号泣)

 

 この机くんが今作の「結び」でも非常にいい描かれ方をしています。というのも、かつての協調性がなかったころの机君を彷彿とさせるような新キャラクター「筑波」が後輩としてかるた部に入ってくるからです。このことで「恒久的に尊い精神性の継承」というテーマも見えてきます。ジョジョでいうところの「黄金の魂」ですね。

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 この佐野勇斗さん演じる「筑波」は、いわゆる生意気な新入生です。「後輩でも、自分より弱い先輩の言うことなんて聞かない」とか言ってかるた勝負を挑んでくるような奴です。かるたの団体戦でも個人戦が5人並んでるだけだろ」とか言っちゃいます。先輩からは「一体感が大事なんだ」とか感情的な説教をされますが、筑波君はそういうロジックのない説教は大嫌いで話をききません。

 

 んで安易な映画だと、この「一体感のなさ」という曖昧な雰囲気の問題で団体戦が失敗するというような描き方もできるのですが、ちはやふるー結びーはそうは描かなかった。きちんと団体戦でしか起こりえない」ロジックのある負け方をするのです。ちはやふるはこのように、勝敗にロジックがあるのが偉いと思います。感情だけで勝敗がきまるのと、ロジックがあって勝敗が決まるのとではストーリーに対する納得度が違います。さて、そんな危機が机君の活躍によって回避されるわけです。

 

 しかし「結び」のクライマックスの団体戦では机君がまず負けてしまいます。どうしても悪くなりかける雰囲気・・・しかしそれを佐野くんが勝利によって打ち消す!このチームによる持ちつ持たれつのバランス感覚。個人個人の強みによるチーム全体の相互補完。言葉ではなく体験でチームプレイを本当に理解する。このとき正に「恒久的に尊い精神性」が継承されたわけで、大きな感動が生まれるのでした。

 

 ちはやふるの結びは、全体的にこの「継承」というテーマが貫かれています。もっというと、継承とは「精神性を永遠にすることが出来る唯一の尊い手段」ということです。特にこの点で際立つのは、主人公太一と、作中最強のかるた名人である「周防」の関係性においてです。

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 作中最強のかるた名人「周坊久志」。雰囲気とかやたら甘いもん好きなとことか、モデルはデスノートのLですかね?

 

 この周防は「声が発せられる前に札を取れる」というチートキャラでして、かるたルールにおいては究極系の強さにいるわけですが、そんな彼が主人公太一を弟子にします。この修行シーンなんか最高ですね。クリードかよ。

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 ※「クリード」における修行シーンも貼っておきますね

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 しかしどうもこの最強の周防さん、かるたに対してどこか消極的なのです。「かるたが好きというより、かるたしかなかった」というような言い回しをしたり。それもそのはず、彼は耳の聞こえが異常に良く、代わりに目がどんどん悪くなっていく病気なのでした。いくら耳が良く、読み手の声が発せられる前に札を取れると言っても、いずれ目が見えなくなったらそこで終わり。周防さんのかるた人生はそこで幕を降ろすことになるわけです。

 

 もちろんこれは青春のメタファーにもなっているわけです。特に部活動なんかは3年で必ず終わりがくるわけですよ。その終わりに向かって、ひたすら今という数瞬に情熱を傾け続けること、これが青春の輝きなのです。時間軸を伸ばせば人生もそうですよね。必ず終わりが来ますが、それでも人生を投げずにただただ「今という数瞬に情熱を傾けて生きる」。これが死ぬまで出来る人は死ぬまで青春です。

 

 ただ部活はいつか終わってメンバーが入れ替わるし、人生だってどんな個人もいつかは死にます。しかしその前に、しっかりと精神性を継承することで、それが伝統となって、青春の数瞬が永遠となるわけです。周防は太一に向かって「数瞬を永遠にできるのが人間の尊さ」だと諭しますが、これは「結び」全体の継承というテーマを貫くものなのでした。

 

 この継承という関係性は、周防と太一だけでなく、映画全体の様々な場面で表れています。どう考えても実力不足な後輩を、全国大会でスタメンとして起用して修羅場を経験させたり、たすきが渡されたり、負けたチームに顧問の先生が叱咤激励するシーンなんかもそうですね。勝利を積み重ねるほど、その下には負けたチームの青春の終わりが積み重なるわけで、そこって凄く意義深いところだと思うのです。ついには、だれが頂点をとっても全ての青春はそこで幕を閉じ、残されるのはただただ継承があるだけ。

 

 だからこの映画の幕が、かつてのかるた部の顧問に、ヒロインである千早が就任するところで降ろされるというのは非常に筋が通っているわけです。そしてperfume「無限未来」が流れる。鳥肌が立ちましたよ。

 

 というわけで「ちはやふるー結びー」は今年ベスト候補の一作となりました。もちろんテーマだけではなく、伏線の貼り方、キャラクター説明のスマートさ、電車を使った方向関係示唆といったような映画的な部分も至る所で丁寧につくりこまれていました。邦画の青春モノを代表する、これから長く語り継がれていく傑作になったと思います。そろそろ公開も終了が近づいてきてるんで、今のうちに映画館でウォッチしてみてはいかがでしょうか。

 

 ※他にも、「勝手にふるえてろ」で素晴らしい主演をした松岡茉優さん演じるクイーンの圧倒的美しさとかめっちゃ語りたいですけど、これ以上はかなりコアでフェティッシュな話になってしまうので自重したいと思いますよ。本当に麗しい・・・。

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 「勝手にふるえてろ」も今年のベスト候補なのです。松岡茉優さんは今ぼくが一番注目している女優ですね。

yushak.hatenablog.com

 

  END.